第3534日目 〈秋の古本狂詩曲[番外編];『奢灞都館 刊行全書籍目録』をお奨めします。〉 [日々の思い・独り言]

 『奢灞都館 刊行全書籍目録 コンプリート・コレクション』(エディション・イレーヌ 2022/10)と題された、夢のような本が届いた。1972年に初めて世に出た奢灞都館の刊行物、ジョルジュ・バタイユ『死者』に始まって、最後の刊行物となる2003年07月のアルフォンス・イノウエ銅版画集『ベル・フィーユ』まで全122点(同一書目の限定版・特装版などを含む)を、その過半に書影を付けて1巻の書とした、まこと珍重・握玩に値する目録である。
 ページを開くとゆったりとした版面に、美麗な書影が数点ずつ載る。わたくしはこれまで生きてきて、斯くもうっとりとした気分にさせられる書籍目録にお目にかかったことは、久しくない。しかもここに載るすべてが1人の人物の所蔵になるというのだから、羨ましく思うやら妬ましく思うやら、複雑な心境である。
 というのも、まだ生田先生ご存命の頃に奢灞都館の出版物に触れてその造本の贅沢さ、選び抜かれた文学のみを送り出す高踏派の精神、どこかから漂ってくる人の手のぬくもりに打たれてその刊行物すべてを蒐集したい、と意欲を燃やした頃が、確かにあったからだ。いつの間にやらその熱意は他に取って代わられて、いたずらに歳月を過ごしてきたが、人生も黄昏時を迎えようとしている現在、こうした継続する熱意とお金の使い方の上手さが凝縮した刊行目録に出会えた。慶事といわずになんという。
 編者松本完治と所蔵者鎌田大によるエッセイは、奢灞都館の出版物がどうしてここまで心ある愛書家を惹きつけてやまないか、その答えを一端なりとも説き明かしてくれるような内容だ。就中鎌田氏がドールヴィリー『真紅のカーテン』特装本を2部、特別に製本発注していただいたエピソードは白眉というてよい箇所だ。現にそれは書影として載り、奥付には朱筆鮮やかな「著者架蔵本」てふ生田先生の自筆がある。ファン冥利、という単純な一言では片附けられぬ、愛書家垂涎のエピソードなのだった。祇園で撮影された写真が、またニクイ。
 巻末には『彷書月刊』に載った生田かをるの談話が載る。既に掲載誌の入手は古書市場でも困難かと思われるので、それを踏まえても、現在になっては望むべくもない書肆と文学者と刊行者の熱情の結晶を語る貴重な証言が、ふたたび陽の目を見たことを喜びたい。
 1つだけ注文というか、無理と知っての希望になるが、各刊行物の欄に奢灞都館目録の、生田先生の筆になる紹介文を再録いただきたかった。権利関係の問題が生じるのは重々承知している。
 刊行に併せて明日まで(今日まで、ですか)「奢灞都館刊行 全書籍展」が開催されているという。知るが遅かったため秋の京都へ足を運ぶこと能わずが無念である。
 本書は一般書店やネット書店での流通はなく、奢灞都館の出版物を扱う古書店での取り扱いが中心になる由。お早めの入手をお奨めする次第だ。◆

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