第3722日目 〈北村薫「続・二銭銅貨」を読む前に。〉 [日々の思い・独り言]

 その本をパタリ、と閉じた。
 なぜか。或る感覚を覚えたのだ。前にもこんなことが、確かにあった。
 横濱を舞台にした欠伸が止まらぬくらい退屈な連作小説を読み棄てて、今季二冊目の北村薫、『雪月花』のあと『遠い唇 北村薫自選 日常の謎作品集』(角川文庫 2003/09)を読んでいる最中に覚えた、その感覚。
 やがて、最近はすっかり働きの鈍くなった灰色の脳細胞が答えを出してくれた。すべては、その感覚を覚えたときに読んでいた、「続・二銭銅貨」に原因していた。
 江戸川乱歩の短編「二銭銅貨」に材を取ったのが、「続・二銭銅貨」。「続」とあっても実際のところ、後日談というべきか、真相解明篇と呼ぶのか、よくわからぬ。
 乱歩の来訪を「私」が受ける場面で覚えた、前にも抱いた感覚の正体に思い当たったのは、後半へさしかかろうとするあたり──それは、『古書ミステリー倶楽部 Ⅲ』所収「D坂の殺人事件」(草稿版)を読むときのそれに、よく似ている。
 即ち──乱歩の書いた正篇を読んでから、取り掛かれ。正篇とは「D坂(草稿板)」の場合、人口に膾炙した決定稿である。北村の場合は、新潮文庫なり光文社文庫版全集──否、暗号の誤りが訂正された、著者が本文に採用している創元推理文庫の「二銭銅貨」(『日本探偵小説全集 2 江戸川乱歩』)を先に読め、だ。わたくしは素直な読者だからね。
 「二銭銅貨」を読んだのはずいぶんと前になる。筋らしい筋はもう覚えていない。ただ日本初の暗号小説てふ惹句のみだ、覚えているのは。ならば「D坂」同様、いまが再読の好機ではないか。
 以前あったことが、いま再び。その感覚に従う。だから。
 その本をパタリ、と閉じた。◆









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