第3171日目 〈『ラブライブ!スーパースター!!』第10話を観ました。〉 [『ラブライブ!スーパースター!!』]

 前口上というわけではありませんが、まずは一言だけお話させてください。──いやぁ、まさかお披露目直後の放送回で認識を改めさせられるとは、思いもしませんでした、と。
 「第3168日目 〈『ラブライブ!スーパースター!!』;平安名すみれ、という人物について。〉」にてわたくしは、彼女のことをずいぶんと辛辣に書いてしまいました。まったく悪気も含むところもなく、ただこれまで思うていたことを隠さず書き留めただけなのでしたが、けっして後味の良いものではなかった。いつか書いてお披露目することを予定していたとはいえ、です。たぶん、すみれへの辛辣な調子は同類意識の為せる技であったのでしょう。
 すみれはどんなときでもショウ・ビジネスの世界への復帰を諦めていなかった。もういちど、かならずあの舞台に、あの世界に戻ってやる、──その揺るぎなき信念は見習うところがありました。すみれのしぶとさと諦めの悪さには脱帽であります。自分が似た経験を過去にして、いっときかいま見た世界への復帰を夢に描いて生きてきたわけですから、すみれを応援こそすれ、反発する気持ちを持つ必要はなかった──にもかかわらず斯様な文章を書いたのは、心のどこかですみれの強さに憧れを抱いていたからなのかもしれません。
 そんなことを考えさせられましたよ、今回の第10話「チェケラッ!」を観て。サブタイトルから完全に今回はギャグ回と思いこんでいたのに……油断してしまいました。でも、あのタイミングで件の原稿を出しておいて良かったな、という気持ちも一方にはあって、なんというか、うん、複雑な気分です。
 ──第4話もそうでしたがむしろ今回の方が、事実上の<すみれ回>というて良いでしょう。本話にて、すみれの挫折の根深さ、夢がかなわないことへの苛立ちと諦念、それでもわずかな希望を実現させるためにたゆまず続けてきた努力を描いて、まさしく──あまり好きな言葉ではないのですが──<神回>と称すに相応しいエピソードとなりました。
 本話を斯く呼ぶ理由はもう1つあって、それはすみれと可可の歴史的和解が描かれたことに起因する。大袈裟な表現でしょうか? 否、わたくしはそうは思わない。これは大きな前進でした。可可はどんな相手であっても、認めるべきは認めて接してきた;スクールアイドルへの真摯な気持ちと活動への姿勢があれば。
 すみれに対しても同じでした。加入時はいろいろありましたが、その後は減らず口をたたきながらもすみれの能力の高さには、常に一目置いていた様子も窺えました。それが円滑なスクールアイドル活動を営むためとだけは、到底思えない。たしかにスクールアイドルをアマチュアと言い切り、なにかにつけてショウ・ビジネス界での活動を鼻にかけたような発言が目立つすみれには可可、目の敵のように接していました。が、気持ちのどこかではすみれの存在を認めていたように思えます。
 それが今回、センター問題で一気に表面化し、可可の感情も爆発した。それはきっと、すみれの気持ちにわかるところがあったから。同時にそれは、すみれと可可の直接対決(減らず口ではない、本気の言い合い、と受け取っていたけると嬉しいな)の勃発をも意味しました。
 どうせ今回もダメなんだ。どれだけ頑張っても努力も夢もかなえられることはないんだ。これまでの自分を顧みればそんな風に思うてしまうても、致し方ないところでありましょう。そんなすみれの真情が吐露された台詞が、今回は2箇所ありました。ピックアップしましょう。
 1つは、新曲の衣装を着たすみれをセンターに置いて撮影された動画の評判が芳しくない、とかのんと千砂都が話しこんでいるところに現れたすれみが、その場を走り去る場面での、可可と交わす会話です。中庭にての場面、時間にして、13分30秒となります。曰く、──
 可可;なに逃げようとしてるですか?
 すみれ;え……。
 可可;可可は反対です。いちど決めた以上、あなたがセンターをやるべきです。
 すみれ;は?
 可可;聞こえなかったのですか? 衣装も作ったのですよ? 誰がなんというと関係ありません。センターはやるべきです。
 かのん;可可ちゃん……。
 すみれ;無理よ。──そんなこといってもわかってるの。どうせ最後はいつも私じゃなくなるんだから!
──以上。
 可可に行く手を阻まれる直前、中庭の階段を駆けのぼるすみれの横顔が映し出される。その絵を観て、ドキッ、としましたね。あの気丈なすみれが唇を引き結びんで泣くのをこらえて、悔しいという気持ちを露わにしていたからです。この描写1つですみれの挫折感の深さ、積み重ねてきた努力が報われてこなかったことから生じる無念が、伝わってくるように感じられたからでもあります。ああ、この人は本当に夢に向けて日々努力を積み重ねてきて、そのときそのときを全力で生きてきた人なんだ、と伝わってきました。白状すると、わたくしが宗旨替えをしたのはこの場面を一見したからなのであります……。
 「どうせ最後は私じゃなくなる」てふ台詞には、思わず嗟嘆してしまいます。深い溜め息をついてしまいます。こんな台詞、16歳の女の子がいっていい台詞じゃぁないですよ……。
 もう1つは可可の帰国問題に絡んだものですが、こんな大問題が出来しなければ可可とすみれの和解はあり得なかったかもしれない、とはなんとも哀しいものを感じます。16分57秒からの場面です。曰く、──
 可可;あなたのスクールアイドルへの想いはそんなものなのですか? 「ラブライブ!」で光を手に入れるのではなかったのですか!?
 すみれ;勝たなきゃいけないんでしょっ! (可可、たじろぐ。すみれ、涙を浮かべて可可に)あんた、絶対勝たなきゃいけないんでしょ?
 可可;……まさか……
 [走り去るすみれ]
 かのん;すみれちゃん!
 可可;待って!
 [あとを追う可可。正面玄関で追いつく]
 可可;待って!
 すみれ;うるさいわね、もう話は終わったでしょ?
 可可;さっきの可可の電話、聞いていましたね? 盗み聞きとはやはり、根性が曲がっています。
 すみれ;かのんたちは知ってるの?
 可可;……いいえ。
 すみれ;なんでいわないのよ。
 可可;可可のことを気にして、スクールアイドルをやって欲しくありません。
 すみれ;でも、勝たなきゃいけないんでしょ? 結果を出さなきゃ。だったら──
 可可;そのために、あなたがセンターが良いといってるのです。
 すみれ;なに意地になってんのよ。
 可可;意地になどなっていません。
 すみれ;なってるでしょ。本当は嫌なのに、かのんが勧めるから、とか、なんだかんだで練習しているから仕方なく、とか、可哀想、とか、練習しているところもこっそり見てたでしょ。全部わかってんのよ、あんたのことなんて。
 可可;なにもわかってませんよ? そんなことで可可が神聖な「ラブライブ!」のセンターを任せると思ってるのですか?
 すみれ;任せたでしょ、実際。
 可可;可可があなたに任せたのは、あなたが相応しいと思ったからです。練習を見て、その歌声を聞いて、Liella! のセンターに相応しいと思ったからです。それだけの力があなたにはあると思ったからです。
──以上。
 どうやらすみれは自己憐憫の度が過ぎるようであります。が、既に『ラブライブ!スーパースター!!』をここまで観てきたわたくしにはこの姿がナルシズムには映らぬのであります。仕方のない感情なのです。すみれはこれまで、この若さで幾つもの挫折を味わってきた。中心に立つことを夢見て、特別な意味合いを持つスポットライトを浴びるため自主練習を欠かすことなく、今日までやって来た。それは同時に周囲の声にならぬ声を聴き取り、ともすれば自分は望まれていない存在なのかもしれない、とまで思い詰める程になっていたのかもしれません。この頑ななまでの自己肯定感の低さは、そうしたあたりから出ているのかもしれません。
 とまれ、本話にて平安名すみれと唐可可の和解は果たされた。
 喫茶店でかのんに諭され、その夜こっそり神社へ足を向け、自主練中のすみれを観察する可可──夜に自主練していることは、すみれから聞いていたのかもしれませんね。あんがい神津島に渡っていたときに──。すみれの姿に思うところあり、可可はすみれがセンターに立つための衣装を用意した。
 その際の台詞こそそれまで通りの減らず口、けんか腰の口調だが、どこかすみれを認める調子が含まれていました。自主練風景を見たからなのか、第4話以後時折見せられていたすみれのポテンシャルの高さを不本意ながら認めていたゆえか、この時点ではまだ視聴者側には憶測でしかなかったけれど、終盤に於いてそれは可可の口から明言されました。それが上にも引いた、「可可があなたに任せたのは、あなたが相応しいと思ったからです。練習を見て、その歌声を聞いて、Liella! のセンターに相応しいと思ったからです」てふものでした。
 この台詞には胸を打たれました。シンプルな言葉なのに、心の奥にぶっささってくる強さといったら! 可可は誠、名言の宝庫であります。同時に迷言の宝庫でもありますが。この瞬間を以て可可とすみれの環はつながれ、互いを認め合い、初めて互いの名前を呼び捨てにし、そんな過程を観るから、エンディングでの2人の掛け合いもこれまでとは違った気持ちで観ることになるわけであります。
 まぁ、そんなこんなでLiella! は「ラブライブ!」東京南西地区予選に出場した。そこで披露された、すみれセンターの新曲「ノンフィクション!」はこれまでの曲調から一転してアダルトな曲でありました。平安名すみれという人の個性や表現力を引き出した、なかなかの名曲と思えます。
 これまでLiella! が披露してきたどの曲と較べても、趣の異なる曲といえましょう。Liella! のメンバーが皆、それぞれ違う意味で克服すべき過去(可可の場合は克服しなくてはならない、と現在進行形になるが)を経験しているだけに、このアダルトな曲がいっそう相応しく感じられるのであります。要するに、意外とLiella! に似合った曲なのだ。これは早いところ、是非にもフルヴァージョンで聴きたいな。
 16歳(15歳もいるが)という大人なんだか子供なんだか微妙な年頃の少女たちならではの危うさ、不安定さをプラスの方向に持っていった、戦略勝ちの1曲といえましょう。
 しかし、あのぉ……ですね、「ラブライブ!」東京南西地区予選の地区大会説明会で発表されたテーマのラップ要素は、いったいどこに? そもセンター;すみれでゆくと決まったきっかけは、部室で即効で披露したすみれのラップにメンバーがびっくり、「すみれちゃんで行こう!」となったのではなかったか? まぁ、どちらにせよ、すみれにぴったりな曲でありましたね。
 なお、本編では触れられていませんが、次回予告の一コマから判断する限り、Liella! はぶじ地区大会を突破して本戦にコマを進められた様子。Liella! と書かれた黒板を前に5人が「いやぁ、どうもどうも」なんてしている顔を見ていると、そうとしか思えません。
 すみれには妹がいた! とか、『ラブライブ!』と『ラブライブ!サンシャイン!!』に登場したアキバリポーターが本作ではシブヤリポーターとして登場! とか、「ラブライブ!」エントリー校のなかに国立音ノ木坂学院によく似た名称の学校があったなぁ、とか今回も様々なネタを披露してくれましたが、感想文の筆を擱く前にこの話だけはしておかなくてはなりません。
 残り3話となった『ラブライブ!スーパースター!!』が抱えて表面化した問題、即ち可可の帰国問題についてであります。
 兆しは第3話からありました。可可のマンションにて可可とかのんの他、千砂都がいて代フェスの打ち合わせをしていたときであります。
 上海にいる姉から電話がかかってきて、なにやら深刻な顔で話しこむ場面があった。鋭敏な視聴者(鍛えられている視聴者、ともいう)はここに『ラブライブ!』第1期最終話に於けることりの留学問題の影を感じて、まさか可可帰国するんじゃね? との憶測を交わしたのでした。その後、この類の描写がなかったことですっかり忘れていましたが、嗚呼、今回第10話に於いて遂にそれは現実のものとなって表面化した。
 どうやら可可が日本へ来るにあたっての事情は、そう単純ではなかったらしい。すくなくとも『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』のエマ・ヴェルデのように家族から応援されての留学ではなかった様子。
 或る日、学校からの(塾からの?)帰り道、街角の大型ヴィジョンでサニパの歌い踊る光景を観て、日本にはこんなに素敵な人たちがいるんだ、スクールアイドルとはなんて素晴らしいんだろう、と感激した;それを回想しながらの、第3話での可可の発言を思い出してみましょう。曰く、「可可の家は厳しくて、勉強さえしていれば良いという家庭だった」と。
 このような環境で育った可可であります。必死になって両親を説得したとは想像できますが、その両親がすぐに折れて娘の希望をかなえたとは、ちょっと考えにくい(可可は末娘でありましょうか)。断固反対を続ける両親が娘の熱意と頑なさに根負けして、条件を出してきていたに違いありません。スクールアイドル活動を行うために日本へ留学することは構わない、但し一定期間内に結果を出すことが出来なかったらその際は、可可の意思や希望に関係なく中国へ帰国すること。そんな、条件。
 過程はともかく可可の留学は実現した。そこには姉も関与していたでありましょう。姉が両親と可可の間に立って、調停役を務めたフシはじゅうぶんにある。可可に連絡を取っているのが、ストーリー上現れた限りでは姉だけという事実が、それを証明しているのではないでしょうか。
 第10話での電話の相手は特定できませんが、翻訳アプリでの口調(「①うん。わかってるよ。」②「結果が出なかったら帰るって約束でしょ。ちゃんと覚えてるよ。」「③うん、じゃあ、いま練習で忙しいから切るね。」)から推測するに、これもまた姉でありましょう……上述の経緯が実際にあったとすれば、両親から連絡を入れてくるとはあまり考えられないし、可可の口調ももうちょっとトゲのあるものになるのではないかな。
 アニメ放送前にリリースされた「始まりは君の空」の特典Blu-rayでは、東京到着直前の可可の笑顔が映っていた。この笑顔の後ろには、憧れの日本に来た、という喜び以外に、背水の陣を敷いて母国をあとにしてきた可可の決意の固さもあったかもしれない。第10話を観てしまったいまは、この映像を観るときの気持ちがこれまでと変わってまいります。
 可可のスクールアイドル愛とスクールアイドル活動へ賭けるひたむきさの裏には、こうした<不退転の決意>があったのだ。そう考えると、これまでの可可の発言の数々──就中スクールアイドル活動を甘く見ている、軽く見ている(ように映る)すみれへの態度は、十分に納得できるものになってくるように思えます。
 ──次回第11話は「もう一度、あの場所で」。いよいよ本戦の様子。その会場の下見に訪れたらしいLiella!。5人の視線の先にあるステージは紅白や各歌番組、或いはN響の演奏会でお馴染みなNHKホールを想起させます──というか、NHKホールそのものであります。
 さて、『ラブライブ!スーパースター!!』に於いてこのステージはどんなエピソードを伴って出てきたか。「もう一度、」とはかのん目線での表現でありましょう。となると……第1話で小学生のかのんがソロパートを歌おうとして気絶したあの場所が、まさかの次のステージ? トラウマ発祥の地への帰還=トラウマ完全克服が次回の要、となりましょうか。
 かのんのトラウマ完全克服はどこかで明確に描かれなければならない課題でありました。すくなくともこれは、第1期で解決しておかねばならぬことです。これを解消して遂に立つ決戦のステージなんて、最高に熱い展開ではありませんか。嗚呼、どうか、可可の帰国問題と併せて性急かつ安易な解決策だけは採られませんように。◆

共通テーマ:日記・雑感

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。