第3345日目 〈コールセンター業界へどっぷり浸かった10年間で体得したこと。〉 [日々の思い・独り言]

 役者さんと営業マン、コールセンターのオペレーターは似ている、という話をしたことがあります。また、コールセンターのオペレーターは探偵でもある、と。誰に? 馴染みのクラブのお嬢さんに。
 こういうわけなのです。
 与えられた役を演じる、素の自分ではない<誰か>を演じる。これが役者さんのお仕事です。営業マンも然り。自社製品を、自社取扱いサービスを売りこむためにかれらは仮面をかぶる。表情と声に磨きをかけ、相手の心理をたくみに操って成果へ結びつける。
 これは、コールセンターのオペレーターにも当てはまることなのです。ただ、こちらの場合は顔の表情や身振り手振り、その場の空気というか相手との距離感に頼ることが難しい職種です。そのためにコールセンターの研修では必ずというてよいぐらい、「声の表情」と「受電中/待機中の姿勢」について口ウルサク指導されるわけです。
 「受電中/待機中の姿勢」についてはいわずもがな。姿勢は案外と声の表情にあらわれるものなのです。椅子に浅く腰掛けていたり、うつむき加減であったり頬杖を突いていたり、なんていうのは以ての外。声が間延びになったり、くぐもったり、だらしなく聞こえるだけだ。生きているのか死んでいるのかわからぬような調子の声で対応する人、生気のない声で対応する輩は、根本的にこの業界には向かない人です。感情をコントロールできない、感情がそのまま声のトーンや応対品質に反映して余計なクレームを生む、なんていうのは最悪です。待機中の時間を寝て過ごす、なんて遊びに来てるのか、と罵倒したい。
 この件に関してわたくしは実例を挙げて(なんなら名指し──実名暴露で)一々指摘してゆくことだってできます。やりませんけれどね、そんな徒労でしかない作業。思えば過去1年の期間で上記を立証する格好のサンプルがごろごろした現場を見ることができたのは、或る意味で僥倖だったかもしれません。数10名いたなかでマトモに使い物になり、仕事を安心して任せられたのは、Mさん、Bちゃん、A氏、Tさん、Y氏、の5人であった。同僚の管理者も使い物にならない1人でありましたな。
 とまぁ、姿勢は、コールセンターに於いては特に大事だよ、という話でした。
 もう1つ、「声の表情」ですが、これについては初めてCC運営会社で就業した際、SVの女性が仰っていたことを紹介してお茶を濁します。なんとなればそれは、いまのわたくしが新人オペレーターたちへ研修するときの柱の1つとしているからであります。
 かの人曰く、ご入電者様に寄り添った対応を、クライアント様から安心して業務を継続してお任せ頂けるような対応をするため、電話の向こうの方にこちらの笑顔を感じさせる声を出すように心掛けましょう、と。それが<笑声(えごえ)>である。
 要するに、ぶっきら棒だったり無表情、無感情な声で対応するのではなく、実際に、自席に鏡を置いて対応中の自分の顔がちゃんと口角の上がった、極端なことをいえば目尻に笑いジワができるぐらいの表情で対応しましょう、という教え。われらは──国の事業のオープニングメンバーとして縁あって集まったわれらはそれを、かのSV女史から徹底的に仕込まれた。
 そうしてなんの抵抗も疑問もなく(少なくともわたくしは)それを受け入れ、実践してゆきました。その結果としてなにが起こったか。ご入電者様から担当したオペレーター宛にお礼のお葉書を頂戴したり、センターの事業所紹介ポスターにはインカムを付けたみんなの笑顔の写真をあしらってなんという名称か忘れたが、ともかく最高の結果を残した。笑顔がその場で作られたものではなく普段からの笑顔であったので、そうした結果を出せたのだ。横道に逸れたが、対応が終わる折は感謝の言葉を頂くなんてことは日常茶飯事でありましたな。そうした細やかな喜びでもなければ、繁忙期の1日平均入電件数2,000件超なんて電話業務、やってられませんよ。
 このときの経験はそこから異動したり辞めたり戻ったり、を繰り返してオペレーターをやったり管理者をやったりしていてもキチンと活かされているようで、正直なところ、応対スキルは姿勢や笑声など含めて誰より優っていた、という自負はありますよ。いや、マジで。
 気附けばコールセンター業界へどっぷり身を浸して、もう10年になろうとしています。もう定年まで、否、再雇用のときでもここから抜け出すことは到底できない。でもこれとて最初にキチンとオペレーターとしての心構えとか基本マインドを叩きこまれて、褒めて伸ばして頂いた成果だ。もういっしょに仕事をする機会は恵って来るまいが、いまのわたくしを育ててくださったのは間違いなく件のSV女史、Yさんである……あなたの下で働けたこと、いろいろ懇切にして頂いたこと、親身になってくださったことに、なによりもあなたの存在に感謝しています。
 その後派遣社員としてSVをやったこともあったけれど、範として思い描いていたのは常にあなたでした。もっとも、派遣SVでの就業先には「?」なSVがおりまして、その雲泥の差に嘆かわしくなりましたけれど。あの会社でオペレーター、管理者を経験したらどの会社でも問題なく就業して中核になることができますね。あなたの仰った通りだった。
 「演じる」という見方では役者も営業マンもコールセンターのオペレーターもなんら変わりない、但しコールセンターのオペレーターはそこにプラスして、対応中であろうと待機中であろうと「姿勢」が大事なのですよ、ご入電者様と自分をつなぐのは声だけなのだから表情を想像させる声、笑顔を想起させる声、を作ることを心掛けましょうね、ということなのであります。
 これらを一笑に付したりなんにも響かない、という人は、およそコールセンターには絶対不向きの人であります。この世界(業界)での就業は諦めましょう。
 また、こうした経験をしっかりと積んだ人が管理者になるべきなのであり、2〜3カ月しかオペレーターを経験していないで、上司が、波長が合うから、好みだから、というだけで管理者に指名されてしまった方こそ哀れであります。その事業所でこそ極めて有能な働きを見せることができても、他の事業所へ移ったら途端に使い物にならない、「ポンコツ」にも劣る人材にしかならぬだろう──過去の事例をつらつら思い返してそう考えるのであります。
 ……嗚呼、コールセンターのオペレーターは探偵である、ということに言及できなくなってしまいました(忘れていました)。つまり、ご入電者様が断片的にもたらすわずかな、本当の手掛かりだけを拾い集めて「なにをいわんとしているのか」を推理して、解決のための1本の道筋を示さなくてはならぬ、そうした意味でオペレーターの仕事は探偵に似た部分がある、というのであります。もっとも、探偵、というたのは単に当方の推理小説好きが発症しただけでのことでありますが、しかし、探偵脳である必要はある、と思うております。◆

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