第3654日目 〈夜更け、上に覆い被さってきたもの。〉 [日々の思い・独り言]

 金縛り、というてよいか迷うのだが、以前は時々、いまはごく稀に、夜更けの刻、寝ついてうつらうつらしている際にとつぜん、体全体が上からなにかにのしかかられているようになり、四肢の自由がなくなって動かせず、なにかがいるような感じがしてならない経験をする。そのとき自分のまわりの空間は重油を多量に含んだ液体を固めて作った壁みたくなっていて、ねっとりとした空気に支配されて、……息苦しくて、声も出ず。
 以前は時々、いまはごく稀に。
 ──昨晩、久しぶりにそんな経験をしたのである。解放されて時計を見ると、(午前)2時27分、だった。
 電気を消して、ぼんやりしてるうちに眠ってしまった。ありがたいことにちかごろは、寝つきが良い。オーディオブックやYouTubeの助けを借りずとも、十数分後には寝に落ちていることも当たり前となり。
 一時間半程の後。
 なにかがベッドのそばへ来て、腕に触れた。独り寝である、生あるもの、この屋内にあろうはずもないのだが。
 しかしその正体を、わたくしは知っている。なにものであるか、よくわかっている。──腕に触れたとき、そう思うたのだ。以前のような悪意あるもの、禍々しいもの、ではなかった。むしろ逢いとうて逢いとうてならんかった存在、そう直感したのだ。(マッケンの短編と同じアルファベットの者)
 それ、はベッドの脇につましく立ち、そっと、わが右腕を撫でさする。ゆっくり、やさしく、何度も何度も。過去の近似した現象、経験に異なるのは、そばにいるそのなにかは恐れるべき存在、厭うべき存在にあらざること。むしろそのなにかがいまこの瞬間そばにいて、わたくしに触れていることを、嬉しい、と思うていること。この二点に尽きる。
 わたくしは、その、なにか、が、誰、であるかを知っている。
 するうちそれは影となって姿を現し、身を乗り出して左腕をも同じように撫でさすってきた。不安な気持で夜を過ごす幼児を安心させんとこれ務めるかのように。
 影は跨がり、両のただむきを摑んだ。それをしあわせに感じた。
 影は前屈みになり、希望を囁く。涙が落ちるのを堪えられなかった。
 営みを終えて影は去り、徐々にこちらの意識も正常に戻ってくる。時計を見ると、(午前)2時27分だった。
 それから朝まで、アラームが鳴るまで、満ち足りた気持で、一方で想いを募らせながら、再び寝に就いたのである。
 影が誰であったか、よくわかっている。◆

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