第3530日目 〈秋の古本狂詩曲;岩波書店版『旧約聖書』と『新約聖書』を使って。〉 [日々の思い・独り言]

 あまり状態に期待していない東京都下の古本屋から、岩波書店版『旧約聖書』『新約聖書』全巻揃を売りに出していると知ったのは、蝉の鳴き声に悩まされて不眠症になりかけていた頃だ。
 なかなか決心がつかなかった。買ってもどこに置くんだ? 最早自宅内にそれだけのスペースを捻出できる余裕はない。書庫としてアパートの1室を借りるなりマンションの1室を買うなりするにしても、自宅周辺に空室・売住戸はなく。
 何だ彼だで2カ月が過ぎた。世は読書週間に突入した。神田古本祭りも開催された。誰も買う様子はない。が、油断はできない。明日買うつもりの古本が翌る日には売れてしまっていた、なんて経験、webサイトでも実店舗でも何度となく経験してきた。──この値段で旧新約聖書註解書が全冊揃で出る、なんてこの先、果たして有りや無しや。
 結論を述べれば、わたくしは遂に耐えられなくなり、購入ボタンをクリックして、支払い手続きを始めた。10月末日の午前2時過ぎである。プレッシャーに負けたのだ。数日後、ダンボール箱に詰められたそれが、到着した。
 状態確認とクリーニングが終わると、さっそく任意の巻を選んで読み耽った。最初は『パウロ書簡』、続いて『ヨハネ文書』と『ルカ文書』、今度は旧約に移って『ヨブ記・箴言』、『民数記・申命記』、いまは「エステル記」を含んだ第13巻である。

 これまで図書館で、必要になるたび書架から出したり借りたりしていた本が、いま自分の手許にある、というのは妙な自信と展望を与えてくれる。「エステル記」を収めた巻を外出先で読んでいるのは、かねてから懸案の聖書各巻の〈前夜〉執筆に備えてだ。
 「民数記」から預言書までの〈前夜〉は、まったく新しく稿を起こす必要あり。それ以後は補筆訂正の範囲で済みそうだ。──先年、そう判断して、執筆を進めた。が、性格が災いして、現在は「ネヘミヤ記」まで仕上げて作業は中断、「エステル記」のメモを作成した程度である。以来、聖書〈前夜〉はなにも書いていない。「ネヘミヤ記」は昨年2月頃の執筆だったか……。
 何度か腰をあげかけたが、都度すぐに棚上げした。出不精を決めこんだ報いであろう。急速に膨らんだ「やる気」という名の風船は、ちょっとの時間しか滞空に耐えられずすぐにしぼんで地面に落ちてしまったのである。
 渡部昇一の本に、必要な本は自腹を切って購い周囲に並べておけ、必要なときは図書館のお世話にならずとも済むようにせよ、そうすれば仕事はかなり始めやすくなる、てふ趣旨の文章があったと記憶する。外出先で本稿を書いているのでこんないい方をしているが、『知的生活の方法』ではなかったか。
 それがどれだけ真実であるか、渡部の活動領域の広範さと出版ペース、雑誌掲載ペースの速さを見れば明らかである。「本があることの自信」とは、そんな「無理をしてでも必要な本は自腹で買え、処分せずに自分の周囲に侍らせておけ」なる訓戒の同義語なのだろう。
 〈前夜〉を書き続けるには手許に、必要な資料、文献が不足している。自分のお金で必要な本はゆっくりとしたペースで、そのときそのときで多少無理をしたこともあったけれど、購入して、だいたいそれらの本がどこにあるかは把握している。が、必要な資料、不可欠の文献を欠いているという意識は、常にどこかに巣喰っていた。
 その資料、その文献こそ、岩波書店版旧新約聖書の註解書。なんとそれが、設定していた金額よりも下の値段で売りに出されている。最終的には買ったのであるが、こうして自分の手許にそれが揃ってみると、妙な自信と展望が湧きあがってくるのを感じる。いよいよわたくしは、「エステル記」以後の〈前夜〉執筆に取り掛かれそうだ。
 必要な資料は今後、都度出てこよう。が。それこそ必要なとき図書館から借りてくるか、古書店で探せばよい。欲をいえばティンデルの註解書シリーズなど、かつて参考文献として借り出していた本が手許にあればもっと良いけれど、それは流石に高望みというものだ。汝、自身を知れ。それは能力のみならず、空間確保とそれを支える経済力が自分にあるか、客観的に判断せよ、ということもである。うん、無理。
 わたくしを取り巻くあらゆる事情が許すならば、今年中に「エステル記」〈前夜〉は脱稿したい。そうして来年中には「ヨブ記」「詩篇」「箴言」「コヘレトの言葉」「雅歌」それぞれの〈前夜〉を新しく書き、また補訂のための作業を完了させたい。それを終わらせれば、かねてより念願する聖書各巻の〈前夜〉を連続で、お披露目してゆく具体的メドも立てられよう。「聖書について」「旧約聖書について」「旧約聖書続編について」「新約聖書について」というエッセイも然るべきタイミングで出してゆきたい。
 それが、岩波書店版旧新約聖書の註解書全巻揃いを入手したわたくしがいま抱いている展望と願望である。◆

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