第3422日目 〈すべての未来をこの子に託して──澁谷かのん嬢への頌歌(オード)。〉 [『ラブライブ!スーパースター!!』]

 澁谷かのん、という女の子がいる。新設されて半年足らずで早々に廃校の危機に遭うもどうにか回避できた、東京都渋谷区(推定)にある結ヶ岡女子高等学校普通科の1年生──否、2年生、であったな。スクールアイドルLiella!のリーダーを務めている。
 かつてここまで心を奪われた女の子はいなかった。かつてここまで未来への希望を重ねられる女の子はいなかった。かつてここまで心底愛おしく思える女の子はいなかった。
 表題通り、『ラブライブ!スーパースター!!』の主人公、澁谷かのん嬢への頌歌である。
 これまでの『ラブライブ!』歴代主人公のなかでも類例なきイレギュラー中のイレギュラー。いい換えればシリーズ史上最強スペック&初出スペックを誇る女の子が、この澁谷かのんであった。第1期放送中に作成していたメモを、精査や並べ替え等せず転記すると、──

 01;作詞・作曲の両方に優れた(経験ある)主人公は、かのんが初。グループ全体でも然り。
 02;楽器が演奏できる主人公は、澁谷かのんが始めて。
 03;歌唱力のレヴェルの高さは歴代主人公を遙かに引き離して、もはや孤高の極みにある。
 04;S1#09から推測できる様にフランス語・中国語他の語学に堪能(※)。祖母はスペイン人、父は翻訳家(こちらがハーフか?)なる設定が影響するか。勿論こんな主人公、いた例しがない。【※但しS1#01での可可の言葉が理解できなかったことから、読解に支障なしと雖も会話は不得手なパターンかもしれぬ。】
 05;S1#01にて物語が始まる以前に挫折を経験している主人公は、シリーズ初。
 06;メンタルの弱さとヘタレ度はシリーズ最弱クラス。これは太鼓判が押されるはず。
 07;自発的にスクールアイドルを結成していない主人公は、かのんの前に前例なし。
 08;幼馴染みではない人物と初ステージを踏んだのは、かのんが最初。
 09;やさぐれ度はナンバー・ワン。というか、他シリーズにそんな主人公、いなかった。
 10;スペイン人の祖母を持つクォーター。前述したようにおそらく父親がハーフか。
 11;主人公がグループの名付け親になったのは、意外にも『ラブライブ!スーパースター!!』が初めて。
 12;キャストが一般公募で選ばれており、これがデビュー作となっている件(そうしてこれが結果的に、大成功であった)。

──以上。
 これらの要素をわれらは放送開始前の雑誌や公式サイトからの情報で薄々察し、テレヴィ・シリーズが回を重ねるにつれてまざまざと見せつけられることになる。その度毎にかのん嬢への気持ちは昂ぶってゆき──本当に10数年振りでアニメの同人誌にまで手を出してしまったぜ。
 それはさておき、いや、ホント、こんなに現実味と人間臭さがてんこ盛りなキャラクター、というか主人公はこれまでの『ラブライブ!』にはいなかったですね──穂乃果は音ノ木坂の生徒のみならず全国のスクールアイドルを短時日で掌握、動員し、時に天候まで操ってしまう殆ど<神>の領域にある人だった。千歌は廃校を喜び大会ルールを無視する非常識人で、歩夢は高咲侑への依存だけで生きているような超弩級の(偏った)愛の持ち主であった──、一面しか見ていぬあまりに偏向した意見とは承知している。
 では、この歴代主人公たちと較べて澁谷かのんとは、果たして如何なる人物か。……というところで話は上述したシリーズ最強スペック&初出スペックの持ち主、という話へ戻る。
 やはりかのんを特徴付けるのは、音楽面とメンタル面だと思うのですね。上の箇条書きでいえば、音楽面は1から3,メンタル面は5と6,9、であろうか。
 もう既に当該回の感想で検証等は済ませているはずなので、ここでは繰り返しを省くが、これらを念頭に置いた状態でシリーズの先行3作品を思い出す、もしくは視聴してみると、澁谷かのんという主人公のイレギュラーぶりが際立ってくることだろう。
 これまで作詞はしても作曲は他の人或いはその逆もしくはなにもしない(できない)、楽器の演奏経験は他のキャラクターで分担する、という構図が固まっていた。然るに『ラブライブ!スーパースター!!』ではそれらがいずれも皆、主人公たる澁谷かのん嬢に委ねられていたのだ。これを知ったときの軽い衝撃、……どなたか一半なりともご理解いただくのは難しいだろうか。
 そうしてメンタル面で付言、或いは言を新たにしていうことあるとすれば、こんな感じになろうか。曰く、──
 思えばLiella!の物語は、かのんが原宿の裏道で思わず口ずさんでしまった自作の歌を、可可が耳にしたことから始まった。かのんの歌声に惚れた可可がめげることなく彼女をスクールアイドルに勧誘していなければ、きっとかのんは、結ヶ丘女子高等学校音楽科の受験に失敗してやさぐれたまま、また小学校時代の合唱コンクールでの気絶や前述の受験失敗から来るトラウマを克服するための第一歩を踏み出せぬまま高校生活を過ごすことになったことであろう。Liella!の物語は、『ラブライブ!スーパースター!!』第1期の物語は、他ならぬかのんが過去の呪縛を断ち切って新しい自分へと生まれ変わってゆく物語でもあった。
──と。
 また、これは当該回感想文の繰り返しになることでもあるが、当時といまとでは、これを書いているわたくし自身の役割がまるで違う。つまりわたくしはこの間に、人の親となったのだ。生まれたわが娘を見るが如く澁谷かのん嬢を見れば、この子がどれだけ親の愛情を存分に注がれて成長してきたかがよくわかるというものだ。穂乃果の家庭も随分とあたたかで、老舗の娘らしくきちんと躾けられて育てられたかを窺わせる場面があったが、かのんに於いても同様なことがいえるのだ。
 それが殊によく現れていたのがS1#09「君たちの名前は?」のBパート、かのんが新曲の作詞を進めると共にグループ名を考える一連の場面だ。彼女は作業を進めるにあたって、当たり前のように父親の書斎に入り、各国語の辞書を持ち出して、扉を出たところで出喰わした父親に向けて(それまで家庭内の描写では観た覚えのないぐらい)満面の笑みを浮かべるのだ。
 挿入歌「Dreaming Energy」が流れている場面なので当然かのんの台詞も(これまた当然……『ラブライブ!』世界のお約束として……)父親の台詞もないが、ほんの数秒のこの場面にかのんと家族の普段からの関係性を垣間見るのである。あれはね、父親を避けるとか毛嫌いとかしていたら絶対に出ない描写であり、普段からのコミュニケーションがきちんと成立していて、父親への愛情や尊敬が根っこにあるからこその笑顔だ。このさり気ないシーンがいつまでも心に残っているのは、なぜか? 父娘の関係の美しさがここにあるからだ。ヲタク的な意味でなく、人の親として、わたくしは澁谷父子の関係を羨ましく、憧れのように思う。
 同様のシーンは、S1#03「スクールアイドル禁止!?」にもある。可可から託された歌詞ノートを基に、後に「Tiny Star」に結実する歌詞と曲を作るかのん。それを行っているのは、おそらく閉店後の自宅喫茶店のカウンターである。カウンター内には母親がいて、食器を洗っている。カウンターで作業している娘を見て母の曰く、「宿題? そんなわけないか」と。そのときかのんは、慈母のようなやさしげな表情で、「ううん、宿題だよ。友だちからの」と答えるのだ。
 さり気なくも普段の娘の行状をよく知る母親ならではの台詞であったが、それをかのんはやさぐれて返事するのではなく、慈母としかいいようのないやわらかな顔で親に応じる。短い間でのかのんの内的成長の見事さを讃えるべきだが、ここではむしろ母と娘のやり取りのなかに埋めこまれた情趣を汲み取るべきだろう。これもまた家庭内コミュニケーションが普段から確立されていないとできぬやり取りであるに相違ない。
 昨今、人が感情を抑えきれず、或いは孤立して話す相手もないことは原因の1つと考えられる犯罪が目立って跡を絶たない。けれどもわれらが澁谷かのん嬢が斯様な犯罪に手を染めることも、人の気持ちを軽んじたり弱みにつけ込んでマウントを取るような行為に走ることも、ないであろう──澁谷家がきちんと、かのんのみならず次女ありあも育て、躾けてきたことがじゅうぶんに見て取れるがゆえに。うん、人間形成の根幹は親の愛情と教育であるな、とつくづく感じさせられたことである。
 大袈裟かもしれないけれど、ここでは省いたかのんとありあの関係も含めて、『ラブライブ!スーパースター!!』から一種の家庭論、子育て論を構築することはじゅうぶん可能であるようにわたくしは考えているのだが、如何であろうか? もしラブライバーのなかに子を持つ親がいるならば、同様に「是」とする人も多いと思うのだが……。
 ──書き終えてみればかのんと両親の関係に比重が掛かってしまい、アンバランスなものとなってしまった。ご寛恕願えれば幸いである。
 わたくしは澁谷かのんに未来の希望を託す。われら夫婦はそれがゆえにこそ、その名前をもらったのである。◆

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