第3453日目2/2 〈『ラブライブ!スーパースター!!』第2期第05話を観ました。〉 [『ラブライブ!スーパースター!!』]

 既にお伝え済みではありますが、初見の方もおられようゆえ、これまでの第05話に関する発言要旨を述べた上で、本題に入ろうと思います。
 第01話から第04話までの平均登場時間、約2分強というシリーズ屈指のレアキャラ化していた鬼塚夏美。会社経営者である彼女が如何にしてLiella!に加入することになるか、それがようやく描かれてゆく第05話だったのですが、これを観てわたくしは胸糞悪くなった。斯くも人格の破綻した愚人がこれまでシリーズに登場した例しがなかったからである。
 正直なところ、〝コレ〟の卑しさに呆れて、視聴を止めようかと考えたことは二度や三度ではない。が、第1期に引き続いて最終話まで感想を必ず書くと決めてしまった以上、事務的であっても書いてお披露目するが義務と荒ぶ気持ちを宥めて、筆を執っている。当然録画したものを観ながらの感想執筆となるので、再び腸煮えくり返ることもあるだろうけれど、能う限り抑えて書いてゆくつもり──。怒り荒ぶることあらば、読者諸兄よ、どうぞお許し給へ。
 それでは──、



 要旨をまとめると、鬼塚夏美のイカレっぷりと平安名すみれの頼もしさ、1年生トリオの実力差に対する悩みの深さ、この3点が『ラブライブ!スーパースター!!』第2期第05話「マニーは天下の回りもの」の柱となる部分であった。もう少し具体的に述べれば以下の通り。

 まずは鬼塚夏美の件。
 「オニナッツチャンネル」のチャンネル登録者数は68人。動画コンテンツは上から順番に「【現役JKが歌う】スクールアイドルメドレー アカペラで歌ってみた!」(723回再生 3日前)、「【激ヤバ】22時間ぶっとおしで寝てみた!」(102回再生 2週間前)、「【禁断】夏美のオニ辛口徹底追及〜時事ネタ編〜Part1」(221回再生 2週間前)、「【大食い】おにぎり100コ作って食べてみた【超過酷】」(118回再生・3週間前)。00分58秒〜01分01秒他の画面で流れた。
 それにしても……主体性なきアホ企画満載のチャンネルらしい。日経平均を気にかけていたのは「オニ辛口徹底追及」のネタとして観測していた可能性も出て来た。いずれにせよ高校生レヴェルの時事ネタ徹底追及である。他人のフンドシ借りて……が精々であろう。
 しかもこの直後の場面で判明するが、スクールアイドルメドレーの動画をあげていながら自分の通う学校のスクールアイドルのSNSをチェックしていなかった模様(01分14秒〜01分19秒)。いつの間にかこんなにフォロワー数が(増えていた)……というていたので、鬼塚がLiella!をチェックしたのは入学して間もない時期であったろうと推測できる。そうしてその後はまったくチェックしていなかったことも、推測できる。
 さて。
 いよいよ鬼塚がLiella!に接近した。なぜ、どのようにして? 目的はやはり、自身の動画コンテンツの再生回数増、いいね増、チャンネル登録者数増、であった。つまり、スクールアイドルLiella!の人気(この場合はフォロワー数と再生回数)に便乗して、これを巧くたらし込んで陣営に引きずりこみ、営利目的に活用する、というのが「なぜ」への回答。これは大方予想した通りであった。
 「どのようにして」に関しては案外と正攻法で接近した印象である。Liella!の人気を更に高めるため=ラブライブ!優勝を確実に視野に入れるため、自分の会社とタッグを組みませんか? あなたがたの広報役を務めますわよ。それが鬼塚の言い分。結構ストレートかつ包み隠さずの交渉だったので、視聴するこちらは却って拍子抜けした程だ。
 鬼塚の提案に、Liella!リーダー澁谷かのんは生徒会長たる葉月恋とスクールアイドル部部長嵐千砂都に助言を仰ぐ。恋はやや不安そうな口調ながら「そうした役を担ってくれる人がいてくれた方が、私たちは練習や作詞作曲に集中できますが……」と留保附きの同意を示した。一方で千砂都はかのん信仰が足許を掬ったか、「良いんじゃない」と一言で鬼塚の提案を受け入れることに前向きな発言をした。
 疑問なるはなぜここでかのんは、すみれと可可に意見を求めなかったのか、だ。少なくともすみれはどれだけネタにされてしまっていようと、ショービズ界を経験している唯一の人だ。かのんはそれをすっかり忘れ果ててしまっていたのだろうか。彼女はもう少し慎重になるべきだった。すみれに意見を仰がなかったこと、契約締結にあたってすみれを重用しなかったこと、この2つが鬼塚の台頭を許し、後に触れるLiella!分断を演出させたのだ。「チョロいですね」という鬼塚のかのん評も殊この件に関する限り誤りではない。
 本音をいえばもはや定例となっている会話の再現すらしたくないのが、検証のためには必要なので作業に取りかかろう。──鬼塚夏美の人格を、その言葉から考えたい。
 ○01分24秒〜01分32秒
  (Liella!のSNSをチェックしていて、)
 鬼塚;そうですわ。これを利用すれば……。(下心丸出しの表情で)にゃは〜。マニーですの。マニーですのー!!
 ○05分24秒〜05分52秒
 鬼塚;(ぼやく1年生トリオを盗撮して)くっくっく。あの3人がスクールアイドル部に入ったことで、1年生からの人気が急上昇中。私ともあろう者がさっさと利用すべきでしたの。Liella!のフォロワー数と動画の再生回数、そこにオニナッツのプロデュースによって起きる効果を加えると──にゃは〜ん。マニーですの、(下心丸出しの表情で)この世はすべてマニーですの〜!
 ※この直後、鬼塚はスクールアイドル部の部室を訪ねているのだが、驚いたり喜んだりするメンバーのなかで唯一、四季だけが疑惑というか厳しい目で鬼塚を見ているのが印象的である。本章を察するぐらい人間観察に優れた能力を持つのか、四季は。
 ○12分29秒〜12分53秒
  (自室にて。スマホ画面に「リエラ!とあそんでみた〜!(51,312回再生 チャンネル登録者数3,620人)」)
鬼塚;(自室にて)にゃは〜ん。マニー。来ましたの。再生数が、再生数が、どんどんマニーになってゆく〜! (自室の窓を開けて。鬼塚商店の看板、その横に(株)オニナッツの看板)マニーは天下の回りもの。遂に私に回ってきたんですの〜!!
 ○13分44秒〜13分56秒
  (学校屋上、1年生トリオ相手に撮影を始める鬼塚)
 きな子;今日も1日、撮影するんすか?
 鬼塚;勿論ですの。この前のゲームの動画であれだけ稼げたんですのよ。練習となれば……。
 四季;稼げた?
 鬼塚;うわっ、いやいや──
 かのん;遅れてごめーん!
 15分45秒〜16分13秒
  (夏休み明けの地区大会と学園祭でのステージについて、両方とも8人になったLiella!で臨むべきだと主張してそれに皆が同意した様子を見て)
 鬼塚;成る程。そういう構図になっているんですのね。
 すみれ;──どうかした?
 ※このときのすみれは既に何事かを見抜いている様子である。
 可可;ではランニング行きましょう!
 かのん;夏美ちゃんはどうする?
 鬼塚;あー、では撮影しながらついていきますの。(ランニングについてゆくが息切れしてバテそうになる。走りながら)だがしかし登録者数のため、マニーのため、Liella!は使える……。
 ○19分59秒〜22分15秒
 鬼塚;では、本当に怒っているわけではないんですのね?
 きな子;はいっす。明日もよかったら来てほしい、って。
 四季;いってた。
 鬼塚;──思ったよりチョロかったですの。
 きな子;チョロ?
 鬼塚;いえいえ、では明日からも普段通りに。
 ○21分54秒〜
 鬼塚;(部室の外で、1年生トリオの別行動が許可されたことを盗み聞きして、)くっくっく。上手くいきました。上手くいきましたの。分断成功。あとは夏美の思うがまま。(屋上に飛び出して)マニーですの。マニーですの〜!
──如何であろう。
 アニメだからとて許容されて然るべき範囲を超えている。これ程『ラブライブ!』シリーズの世界観をぶち壊して傲然とのさばっているキャラクターも、珍しいのではないか。『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』の鐘嵐珠や三船栞子は、スクスタ版からアニメ版へ移行する際設定が大幅変更されて、人気度など赤丸附きで急上昇していった(回復した?)人たちだった。しかし鬼塚夏美にスクスタ版という、仮に黒歴史であってもアニメ化で設定変更されて相殺される履歴はない(Liella!メンバー全員対象者ではあるけれど。というかそもそも、『ラブライブ!スーパースター!!』がスクスタに参加していない──これを幸運と取るか否か、わたくしにはちょっと判断できない)。
 前稿にて結構糞味噌に罵倒したが、その思い、残念ながら本稿執筆の現在でも変節する様子がない。やはり何度観返しても鬼塚夏美は畜生で、愚人で、人格破綻者で、思考回路と精神構造に重篤な欠損のあるキャラクターという印象は維持されている。次回第06話「DEKKAIDOW!」での言動次第でまだこちらの印象、変わる余地はあるけれど、期待するは殆ど無駄であろうか……?

 第1期から第2期で格段に成長したのが、平安名すみれである。第1期では事ある毎にショービズ界の経験を鼻にかけていた彼女であったが(※)、殊本話に関してはプラスの方向に働いた。
 論より証拠。2つの場面での会話を再現しよう。曰く、──
 ○08分10秒〜08分25秒
  (部室で鬼塚のプロデュース案を聞いた後、可可宅前の歩道にて)
 すみれ;(かのんのスマホに転送された(株)オニナッツの契約書を読む)報酬は受け取らない……但し制作費の実費として、動画収入を株式会社オニナッツが受け取ることとする……。
 って、これをOKしたの!?
 かのん;うん。別にわたしたち、お金儲けしたいわけじゃないし。
 すみれ;でも──!
 ○17分31秒〜18分29秒
 すみれ;(オニナッツチャンネルのサイトを鬼塚に突きつけて)これについて話があるんだけど?
 恋;エルチューブ、ですか?
 可可;急になんの話デスか?
 すみれ;これ、この前の動画とか確認したんだけど、結構再生数稼いでいるみたいね?
 鬼塚;うあっ……それはよかったですの……(冷や汗を垂らしながら)。
 すみれ;あんた、プロデュースとかなんとかいいながら、私たちを利用してお金儲けしようとしているんじゃないの?
 鬼塚;い……。
 可可;なにをいい出すかと思ったら、すみれみたいな卑しい考えといっしょにするな、デス。
 千砂都;そうだよ。今日だって──
 四季;実は、私も調べた。このまま行くと、将来的な収益は──
  (四季、推定数値を可可、恋、千砂都に見せる)
 恋;こんなにですか!?
 可可;知らなかったです!
 千砂都;私たちに内緒で──。
  (鬼塚に鋭い眼差しを向けるすみれたち5人)
 鬼塚;いや、これはですね……
 すみれ;ちゃんと説明してもらえる? ショービジネス的にはあり得ない話なんだけど?
 鬼塚;むうー。(逃げる)
 ○18分37秒〜18分44秒
 かのん;夏美ちゃんが?
 恋;すみれさんの話が正しければですが……。
 可可;お金に関しては流石、カンが鋭いですね。
 すみれ;言い方!
──と。
 Liella!メンバーのなかで契約書なるものといちばん親しんでいたのは、他ならぬすみれであった。子役時代(グソクムシ時代)、実際に製作サイドと契約を交わす役は保護者やプロダクション関係者であったろうが、それでも契約書というものがどういう性質の書類か、隅々まで読んで署名捺印しないと時に意に反した仕事をこなさねばならぬ場合もあること(ex;『青春ブタ野郎』シリーズ桜島麻衣のケース)、ギャラに関わる一切の文言を読み落とさぬこと、なによりも自分たちが未成年者(制限行為能力者)であるがゆえに保護者やそれに準ずる立場の成年者を法定代理人としてその同意なく締結された契約は無効となること、など業界経験を通して肌で味わい、身を以て経験し、事務所や保護者から聞かされてきたであろう。
 それゆえに上記かのんに見せられた契約書の内容について驚き、かのんに「この内容にOKしたの!?」と詰問したのだ。それでもすみれは鬼塚の行動と人によっては聞き漏らしかねない発言に不審を抱き、オニナッツの動画サイトを視聴してLiella!を取りあげた動画の再生回数と他の動画の再生回数の極端な差に着目し、Liella!動画再生回数と1回の投げ銭上限を掛けて鬼塚の懐へ入る収入額を計算し、(明確な知識の有無にかかわらず)民法6条に抵触する可能性をチラつかせたのは、すみれでなくては決してできなかった行為といえる。
 このあたりの反撃はあらかじめLiella!メンバーについて知識を仕入れていれば、対策を講じることができたはずである。それができていなかったというのは、単に鬼塚の準備不足であり、相手を見くびっていた証左に他ならない。鬼塚はかのんを指して「チョロい相手だ」と発言したが、それがそのままブーメランとなって返ってきたわけである。鬼塚を指して愚人というは専らこの点を指しての言だ。商取引相手のリサーチを怠るなんていう商売の基本を欠くようでは、鬼塚夏美の経営者能力に大いなる疑問を呈さざるを得ない。本話に於ける鬼塚最大の誤算は、Liella!メンバーに芸能活動の実績を持つ平安名すみれがいたことである。
 それにしてもなぜかのんはすみれになにも相談や助言を仰ぐことがなかったのであろう。もっとも過去の(第1期の)すみれの(かのんへの)対応──たとえば第05話に於ける学園祭問題を巡る普通科内の説得など──を見ていれば、相談相手とするには考えてしまうことあるかもしれないけれど、それでもLiella!1期生はすみれの履歴に敬意を表して相談等するべきであった。そうすればすみれ自身では解決できなくとも、これまでの人脈や親御さんを通して解決の糸口を見出すことができたかもしれない。そも鬼塚の提示してきた契約内容に疑い有りや無しやを訊ねることができたはずだ。
 勿論主たる原因は鬼塚に帰せられるが、かのんたちLiella!側にも此度の争動の一因はあるといわざるを得ない。未成年者であっても法的書面を交わすことに危険は伴うのだ、とはおそらくすみれのみが知ることであり、そのすみれに相談を仰がなかったことは彼女を除くLiella!側の失態としか言い様がないからだ。
 厳しくも真面目なことをいうたが、これが本件に関するわたくしの見解であり、感想である。

※但し9割方は可可に粉砕される。なお、2人の秀逸なるボケツッコミが回を重ねるごとに夫婦漫才化したことと、第1期第11話以後見せた素直になりきれない友情の育みと秘密の共有が、絆を強固にしたのだ。その結果、”くぅすみ”かぷという、或る意味『ラブライブ!スーパースター!!』最強クラスの萌えの温床を提供することに。このお陰でファンの脳味噌はいつも蕩けさせられている。

 そもLiella!の日常と練習に潜りこんだ鬼塚が、本話終盤で2年生と1年生の分断を実現させたのは、練習帰りの1年生のぼやきを盗撮したのが発端であった(05分04秒〜05分54秒)。
 ではそのぼやきとはどのような内容だったか。練習していて否応なく感じざるを得ない先輩メンバーとの圧倒的な差について、であった。どれだけ練習しても追いつけない、却って足を引っ張っているだけではないか、2学期に控えるラブライブ!地区大会と学園祭のステージで自分たちはLiella!メンバーとして恥ずかしくないパフォーマンスができるのか、エトセトラ、エトセトラ。
 どれだけ嵐部長が「練習メニューも少しリニューアルしてみたよ。1年生も増えたし、それぞれに合ったところから始められたらいいかな、って」(03分21秒〜03分28秒)と配慮してくれても──それでも1年生にはキツかったのだ。きな子は(予想通り)倒れこみ、メイもそれに続き、一人平然と汗を拭いているように見えた四季さえ「私も結構ギリギリ」という始末(03分39秒)。
 無理のない話だ。既に1年の歳月が経過しているのだから、先輩メンバーとの間に差はついて当たり前である。入部して2ヶ月3ヶ月程度ならば、その差は多少なりとも埋まったとしても比肩して見劣りなしと万人が認められる程にパフォーマンスが仕上がっていることは、まずあるまい。
 それに顧みるまでもなく2年生メンバーと1年生メンバーには、スクールアイドルを始める以前から、それぞれが持つスキルに圧倒的差異が生じている点を忘れてはならぬ。かのんの堂々たる歌唱力と伸びやかな声と豊かな声量(肺活量)。千砂都のダンスと恋のバレエ、即ち2人とも身体能力の高さと基礎体力が備わっている。すみれの芸能界経験で培った適応力と吸収力の高さ。可可の……可可の……苦手を克服して夢を達成させる意志の強さとブレのなさ。既にメイからきな子に伝えられたことを、ここでは変奏させてみた。1年生組には予めわかっていたことであろう。
 しかし、それでも彼女たちは先輩メンバーに追いつかなくてはならない。なんとなればいま自分たちが所属しているスクールアイドルは、次回ラブライブ!の優勝候補で多くのファンや関係者から注目されているLiella!なのだ。それに恥ずかしくないパフォーマンスをすること、それが(過程はどうあれ)Liella!に加入したきな子、メイ、四季3人に課せられた使命だ。
 でも、本話にて1年生トリオの特技というか隠れた才能も徐々に披露されてきた(03分40秒〜04分49秒)。四季は「ダンスやってたの?」と千砂都に訊かれて否定するもスクールアイドルの動画を観て踊っていたことがあるようだし、メイは、四季が暴露したことでピアノが弾けるという特技を皆の前で披露した/させられた。弾いた曲は、シリーズ史上屈指の名曲と思うクーカーの「Tiny Star」であった。そうしてきな子はノートに歌詞を書き溜めていることが先輩メンバーたちの知るところとなっていた。
 理想と現実のギャップに悩むのは10代であれば誰しも経験あること。それを彼女たちはいま、部活動で経験した。先輩たちのパフォーマンス、そのクオリティに自分たちは歌もダンスも到底及んでいない……そりゃあ、帰り道に3人並んでベンチに坐って、「はあ……」と溜め息を吐きたくなるよな(05分04秒〜05分23秒)。わかるわ、この感覚。部活ではないけれど、様々な場面で味わってきたから。
 そこに鬼塚に付け込まれた3人は不運であったかもしれない。彼女たちの口惜しさや失望感を利用した鬼塚。夏休みの間は先輩メンバーと別行動して、自分たちを見つめ直してみたい=自分たちのパフォーマンスを向上させるべく自主練したい、と嘆願したメイたち3人の言葉のどこまでが鬼塚の入れ知恵で、どこからが彼女たちの本心であるのか、経緯が説明されていないため判別は付きかねる。
 ただ、ヒントはある。20分14秒から21分03秒の場面である。曰く、──
 メイ;ってことは、これからも動画を公開するのか?
 鬼塚;勿論。それが私の仕事ですので。──ん? なにかあるんですの?
 メイ;いや、事実だから仕様がないんだけどさ。もし日常だけじゃなくて、歌やダンスの動画をLiella!のファンが観たら、1年生と2年生で実力に差があるって、はっきりわかっちゃうよな、って。
 鬼塚;それは……
 きな子;笑われるっす。
 四季;間違いない。
  (困り顔できな子たちを見る鬼塚。なにかを思いついた表情で)
 鬼塚;にゃは〜ん。思い着きましたの。わたしたちは全員、1年生。皆さん、ちょっとご相談がありますの。
──と。
 鬼塚は確かにLiella!を、2年生と1年生に分断した。が、その分断はLiella!に向けられた黒い感情ではなく、むしろ1年生の技術向上のための分断であった、と考えられるのが、上記に再現した1年生カルテットの会話である。むろん、鬼塚とて無償の協力ではあるまい。1年生たちの自主練の場を提供する代わりに練習風景を撮影させてほしい、と交渉でもしたのであろう。ギブ・アンド・テイク。資本主義の原理に則った、極めて妥当な行為である。
 それをふまえた上で次回第06話予告を観ると、鬼塚がストーリーラインを作ったとしても、それは案外と建設的なそれであったようにも思うのだ(あくまで表面上の話)。
 というのも、3人の練習風景を撮影する鬼塚の表情や、わざわざ北海道までやって来たのか、かのんの鬼塚に対する慈母の如き表情などからして、鬼塚も流石に露骨な提案はしなかったであろう。しかもそれは、公園に居合わせたメンバーから鬼塚の企みと収益を聞かされたあとなのだ。確かに部室での曇った様子のかのんは気になって仕方ないが……。救いというか期待したいのは、予告の最後に流れた1年生カルテットの笑顔である。これが予定調和といわれようと幸福な着地点となってくれることを望みたい。
 正直なところ、第05話から第06話までどのような(視聴者が納得できるような)ブリッジが架けられ、どのようにして鬼塚に対するメンバーの不信が解消されてLiella!加入に落ち着くのか。まったくその流れが見えない。第1期に於ける恋のLiella!加入の流れよりも不透明で、考える程にモヤモヤした気分に襲われる。
 かつてすみれに関する考察を第1期放送中に書いて、本ブログでお披露目した。そのなかで述べたことの言い直しになるが、今後の展開で鬼塚への新章が回復するようなことがあればいいな、と心の底から希望している。
 ──ふと思うのは、鬼塚はLiella!メンバーとしてパフォーマンスするよりは、邪念を棄ててその広報に徹した方が良いのではないか、ということ。振り返ってみれば、それは恋ちゃんの希望でもあった。その方が鬼塚も自分の能力をフルに発揮して、様々な面でLiella!に貢献できるのではないか。難しいかなぁ。
 ……そういえば、シリーズ先行作に似たようなポジションの方がおられましたな……その名を、高咲侑、っていうんだけれど。そっか、侑ちゃんか……成る程。この2人が接触したら瞬く間に鬼塚は侑ちゃんにマウント取られて、その色に染めあげられるんだろうな。え、その色ってどんな色、って? だって『ラブライブ!』じゃん。



 追加で申しあげることがあるとすれば、レジェンドスクールアイドルが創りあげた〈9の奇跡〉で可可とメイが大騒ぎした場面(06分02秒~06分32秒)と、可可の部屋でゲーム機を見附けてそれに夢中になる場面(10分28秒〜11分35秒)ですね。特に恋ちゃん、皆の会話そっちのけでゲームに興じている横顔、とっても可愛いです。生徒会や音楽科の生徒はこうした恋の姿、知っているのかなぁ。◆

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第3453日目1/2 〈現代語訳「浅茅が宿」;上田秋成『雨月物語』より。6/9〉 [近世怪談翻訳帖]

 夏夜にもかかわらず過ごしやすい晩だった。障子紙の破れ目から松風が途絶えることなくそよそよと吹きこんできていたせいかもしれない。勝四郎は寝苦しさを覚えることなく明け方まで、旅の疲れと帰宅した安心感からぐっすりと、寝入ったのである。
 ──五更、というから、現代でいえば午前4時から6時の間。夏であるから空が白んで太陽が昇る頃だった。
 幾ら涼しい夜だったとはいえ、流石に寒さを感じた。勝四郎は寝ぼけ眼のまま、そこにあるはずの夜着を被ろうと、手を伸ばして探った。なにやら、さやさやいう音が耳朶をくすぐるのに気附き、今度は本当に目を覚ました。
 顔にひんやりとしたなにかが触れた。触れた、というよりは、零れてきた、という方が正しいか。おや、雨漏りでもしているのかな。勝四郎はぼんやりした頭でそんな風に考えた。が、それはすぐに新たな疑問に打ち消された──昨夜、雨なんて降ったっけ? 勝四郎はその瞬間、がばっ、と起きあがって、あたりを──懐かしきわが家を見回した。
 果たして、なんとしたことか──家はわずか一晩のうちに荒れ朽ちていた。
 風にまくられて屋根は剥げ、梁と梁の間から白んだ空が見えた。有明の月、中天の星がその空にはまだあった。扉は外れ、床板は剥がれ根太が覗いている。床下の地面からは荻やら薄やらが好き放題に、背を競うように伸びていた。
 先程勝四郎の顔に零れたものの正体は、この荻や薄の穂に付いた朝露が偶々夜着の上に落ちて濡らし、それを被ったがゆえにかれの顔へその滴が零れたのである。
 更に顔を巡らすと、壁には蔦葛が這い、庭は葎で覆い尽くされていた。
 その印象を一言でいえば、まさしくボロ家、である。
 狐狸の見せる幻か。否、現実だ。どれだけ荒れ朽ちて草生す廃屋となり果てても、ここは住み馴れたかつてのわが家である。好みや要に合わせてしっかりと造作のされたわが家だ。
 呆然とした表情で勝四郎は、床が崩れて足の置き場もない家のなかを改めて見渡してみて、ああそうか、と殆ど直感のようにして悟ったのである。宮木は──いつのことかわからないが既に身罷っており、住む人をなくしたこの家には代わって狐狸が棲みつくようになったのだな。であれば、妖しの存在が幻を見せたとしても、いっかな不思議じゃあない。もしかすると俺の帰りを察して黄泉の国から戻ってきた妻の魂が、あんな風に繰り言をいったのかもしれないな。だとしたら、俺があいつのことをずっと想っていたのと同じように、あいつも夫の俺を終生想ってくれていたのかなぁ……[25]。
 そう考え至った途端、勝四郎は目が熱くなった。が、滂沱と滴り落ちてもよさそうな程の涙は、流れてこない──あまりの慟哭の深さに却って涙の一粒すら零れてくれないのだ。まァ、そんなものであろう。あまりに深い哀しみに直面したとき人は、得てしてそうなるものなのである。
 妻は逝き、家は廃れ、あたりの様子も含めてなにもかもが変わってしまった。なのに自分だけが昔と変わらず、ここにこうしてある。
 そう独り言ちながら勝四郎は家内をあちこち歩いて回り、最後に、夫婦がむかし寝室として使っていた奥の部屋に辿り着いた。ここも床板が外れていた。床の裂け目に目をやると、露わになった黒い地面の一部が、他よりすこし高く盛りあがっている。それは、塚、なのだった。それを守るようにして三方は板切れで囲まれ、雨露を防げるよう屋根が、やはり板切れで設(しつら)えてある。
 昨晩の妻の霊はここから出てきたのか、と嘆息した。怖い、というよりも、懐かしい、とか、愛おしい、という感情の方が、かれのなかで湧き起こって優った。昨晩の宮木の言葉や表情や肢体が勝四郎の心のなかに浮かんでは消えてゆく。
 ふと視線を動かすと、塚の前には手向けの水が注がれた器がある他、一片の木片が刺さっていた。古びた那須野紙が貼ってある。なにか、書いてあった。所々は薄れて判読もすぐにはできない程だが、そこにあるのは確かに宮木の筆跡である。
 よくよく読むと、書かれているのは法名や月日ではない。短歌が一首、書きつけられている。曰く、──
  さりともと 思ふ心に はかられて 世にもけふまで 生ける命か[26]
──と。
 事ここに至ってようやっとかれは、妻の死を確認することができた。途端、大いにむせび泣いて、泣いて、泣いて、膝から崩折れて、妻の名を呼び、泣き叫んだ。
 ……。
 ……息も絶え絶えの勝四郎は、木片に手を伸ばして、那須野紙の隅にまで目を凝らしてみた。が、妻の命日となった月日は、手掛かりだに残されていない。大切な人がいつ身罷ったのか詳らかにならぬとは、なんと情けなく、また惨めであろうか。□



[25]「あんな風に繰り言をいったのかもしれないな。だとしたら、俺があいつのことをずっと想っていたのと同じように、あいつも夫の俺を終生想ってくれていたのかなぁ……」
 →勝四郎は本当に脳天気かつ自分本位かつお目出度い人物である。昨晩の宮木の台詞が繰り言とわかっているなら、想い想われだけで出てきたわけじゃあるまい、とわかりそうなものだが。もっとも、想うているからこそ繰り言の一つも出るのだ、ということは理解しているようだが、……。少なくとも勝四郎の如き人を知己には持ちたくですな。
[26]さりともと 思ふ心に はかられて 世にもけふまで 生ける命か
 →典拠;『敦忠集』(権中納言敦忠卿集)並びに『続後撰和歌集』巻十三恋三「さりともと おもふこころに なくさみて けふまてよにも いけるいのちか」(857)◆

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