第3496日目 〈きのうのおまけ。──スコット・トゥロー『ハーヴァード・ロー・スクール』から。〉 [日々の思い・独り言]

 下村満子『ハーバード・メモリーズ』からアメリカの大学生がどれだけ勉強しているか、しなくてはならないか、それについて思う様を述べた昨日のオマケとして、スコット・トゥロー(タロー)『ハーヴァード・ロー・スクール』ではそのあたりがどんな風に書かれているか、簡単にご紹介します(二日酔いのお茶濁しではないので、念のため)。
 全体を読めば自ずと浮かびあがってくるところではあるのだが、それが端的に描かれた箇所を、著者本人のそれと訳者による付記から引こう。曰く、──

 週末を通して、ぼくは大いに勉強した。あの夜の巣喰いがたい無能さの自覚を、ふたたび味わいたくなかったからだ。刑事法と契約法の宿題として出されたテキストの章を入念に要約し、そのあと、ペリーニが調べるように命じた二つの事件を、何度も読み返した。そして一語一語熟考し、あらゆる角度から調べたりしながら、二件に関する細密な判例メモを作成した。授業で指されたときの答えのリハーサルもやった。法律時点も充分調べ、しまいには、オピニオンに出てくる重要な法律用語の定義をすっかり暗記してしまったぐらいだ。ペリーニについてはこれで大丈夫。万全の構えはできた。
(「登録──敵との出会い」P44-5)

 肩にかついだしん玄袋ふうのナップザックに、千四、五百頁もある判例集を数冊詰め込んで、教室から教室へと移動するのが、アメリカの法学生の姿だが、宿題に追われて、オチオチ新聞も読んでいられない彼らからみれば、教養を積む暇も、人によっては遊ぶ暇さえある日本の法学生がふしぎに映るかもしれない。アメリカのロー・スクール図書館は、午前八時から夜半まで開いている。ハーヴァードでは土曜は午後六時まで、日曜は午後一時から開くというのが、以前は一日中開いていたというから、学習の圧力のすごさがしのばれる。
(山室まりや「付記/日・米法学教育事情の比較」P303-4)

──と。
 これらが事実であることは、本文をお読みいただければ容易におわかりいただけるのだが──特にペリーニ教授の講義ね! あんなに肝の潰れる思い味わわされる講義が、日本の大学にあるのだろうか?──、残念なことに本書は現在絶版で、新版としての再刊予定もないらしい。古書店でも新古書店でも見掛けたら、悩まず買うのが良いと思います。
 本書を読んでいると、(法律の)勉強法それ自体についても成る程なぁ、と首肯するところがあった。曰く、──

 ある学生便覧に、クラスでノートを取るとき、さまざまな色のインキを使う者があると書いてあったのを思いだした。……それで早速、ハーヴァード広場に駆けつけ、高価な万年筆を数本買って、インキの色を数種に分けた。判例メモは黒で、クラスで使うノートは青で書いた。特定の法原則は赤、そして理解しかねる事柄は緑を使った。ペンはリュックのポケットに、同色を二本ずつ入れて持ち歩いた。……ぼくのノートはしだいに、ある程度整然としてきた。『ノートなんて時がたてば自然に整ってくるものだ』とだれかにいわれることがあると、ぼくはもちろん同意した。だがぼくはリュックにペンを入れて歩くことも、黒、赤、青、緑でノートをとることも止めなかった」(P71-2)

──と。
 わたくしも、例えば池上彰の本を読みながら同じように、テーマ毎にペンの色を決めて読書を進めた昨冬の楽しい経験がある。抜き書きノートでも青は引用、緑は自分の意見、茶色は改ページの指示、と分けて使った。あとで読み返しても、時間を要すことなく内容を思い出してゆける点は利点といえましょう。但し、本の扉あたりにどの色はどんな意味合いで使う、ということを箇条書きしておくのが良いでしょうね。混乱とも無縁で内容を思い出してゆけます。実はこんなことをしているのも、遠因を辿れば『ハーヴァード・ロー・スクール』からの影響なのであります。
 然り、己の経験も踏まえて申せば、内容や趣旨によってラインを引いたり語句を囲ったりメモ入れするペンの色を変える、というのは、使うべき色を間違えたり後日色の意味を忘れるなんてケアレス・ミスを防げるならば、価値あり益ある方法だと思います。いまでは数多の勉強法の本ではお馴染みの手段になってしまったけれどね。
 ちなみに『ハーヴァード・ロー・スクール』はスコット・トゥローは処女作であり、かれはその後シカゴの検事補を務めながら小説『推定無罪』を著してフィクション界にデビューしました(ハリソン・フォード主演で映画化された同題作品の原作)。いまでも第一線で活躍する放送であると共に、第一線で活躍し続ける作家でもあります。◆

スコット・トゥロー『ハーヴァード・ロー・スクール』山室まりや・訳 ハヤカワ文庫NF 1985/04

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