第3380日目 〈記憶力の減退に悩む。〉 [日々の思い・独り言]

 芥川龍之介に、そぼ降る時雨を避けて書店へ駆けこみ洋書を愛で……という短歌があった。いまの自分と同じだ。降り始めた雨を避けようと地下街へ駆けこみ、寒さに震える体を温めたく目に付いたカフェへ席を取った。湯気立ちのぼるコーヒーがとても美味い。
 すこしく落ち着いた後に、芥川の短歌を思い出しのである。が、内容は覚えていても肝心の三十一文字が思い出せない。時間を掛ければ可能だろうが、パッ、とすぐに口の端に上らぬようでは無意味じゃ。
 どうやら視力だけではなく記憶力まで低下したらしい。百人一首すべてや『論語』の一節など覚えるともなく覚えられて、必要あらば文献に頼ることなくほぼ正確に誦せもしたのが……。
 そこでゲームをしてみた。どれだけ覚えていて、それを引っ張り出せるか、のゲームである。いま飲んでいるコーヒー一杯の値段は? ストリート・ピアノで奏でられているピアノ曲の作曲者とタイトルは? 1年前の今日のいま頃、自分はどこでなにをしていた?
 ……答え合わせをするまでもなく、結果は玉砕である。現金で支払ったわけじゃないから、と言い訳しておいて、コーヒー(S)は300……何円だったかな。1円台であったのは間違いないのだけれど。いま男性が弾いているのは確かサティではなかったかしらん、と、かつて某レコード店でクラシック担当だったのに自信なく。1年前に至ってはまるで思い出せぬ。これは思い出すことを拒否していることも起因しているか。
 ──ゲームと、その結果に嘆息するのはもう止めよう。失われつつあるものを惜しむより、これから得られるだろう新しい諸々との出会いを楽しむことにする(きっぱり!)。
 そうしてわたくしは、本に手を伸ばす。吉川英治『新編 忠臣蔵』下巻、内蔵助妻が但馬豊岡の実家へ下がる場面。この小説のことも、どれだけ細かなところまで覚えていられることやら。
 ちなみに冒頭の芥川の詠歌とは、──

 時雨ふる街をかけそみここにしも 海彼の本を賞でにけるかも

──である。◆

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